中村新七様

2014年08月09日 19:55

中村新七様

ご無沙汰しております。
お元気でいらっしゃいますか?

きょうは、8月9日。

ことしもまた、中村さんの詩を転載させていただきました。
中村さんに無断で載せておりますこと、どうか、お許しください。

三浦秀和 

- 傷痕去らぬ君と共に - 中村新七

きけわだつみを見に行こう
そんなに俺が言った時
君は俺の顔を見ただけで
横にかぶりを振った
それから俺が真空地帯をさそった時も
やはり同じように
かぶりを横に振り
戦争映画は見たくないと言った
戦争が終わって八年もなろうとしているのに
戦争の傷痕は
今でも君から去っていない
水槽とながしと
玄関のたたきだけを残して飛び散った家に
中心より六百七十米の城山だと言えば
奇跡だと人々の言うように
君はかすり傷もうけずに生き残った
地獄の中でのたうつ無数の肉魂
その中で君だけが
かすり傷もうけずに生き残ったのだ
戦争映画
それが戦争をのろう映画であろうと
君はかぶりを横にふる
まして数年をへた今でも
原爆の傷痕が人命をうばっていると
誰かの口の端にのぼることがあれば
そのことが君の耳を傷つけでもするように
君は耳をふさぎ
目をかたくとざす
君は人間の最大の悲劇を
目の前に再現することを
憤怒の情をもってさえぎろうとする
だが君はそのことが
君だけでさえぎれないことを知っている今
目をとじ耳をふさぎながらも
原爆の悲惨さを会う人ごとに訴える

一本の立木も残さず
吹き飛んだ裏山に
ポッカリ残った防空壕の前で
写真までうつしたアメリカの医者は
驚きの声をあげた
他の多くの人々が言ったと同じように
奇蹟だと
だが君は無傷で生きているのではない
君は会う人ごとに話す
かすり傷もおわなかった私が
数日をへずして
頭の毛が一本も残らぬようにぬけたと
歯ぐきから血がほとばしり
身体は斑点と
眼からは涙さえでないようになった等と
いやそれ以上に
今でも肉づきの悪い身体が
直ぐに疲労を感じることを

そんな君を丁寧なあいさつをもって
ABCCの自動車は迎えに来た
だが喜んで行った君を待っていたのは
目だけしか見てやらぬアメリカの医者だった
そして悪かったら日本の医者によくしてもらえと
原爆の傷痕は目だけにあらわれるものなのか
迎えの時と売って変ったこの行為に
君は不思議なおももちで問うた
『何故身体全部を見ないのです
貧苦の中でむしばまれてゆく私達は
ただ死をまつのみですか』
アメリカの医者と日本の通訳は
くどくどと答える
アメリカから予算がこない
アメリカから送ってくる予算が少ないと
目だけしか見てやらぬことの前に        
君はアメリカの真の姿を知った
何のための調査か
君の怒りは炎となって
アメリカの医者と日本の通訳にたたきつけられた
『きれいな自動車の送り迎えが
私達にあたえられた最上のお情けなのですか
そんなちっぽけな情けを
私達は今必要としない
アメリカは
アメリカの軍備の費用をさいても
人類の最大の悲劇をおぎなうべきなのだ』
君の怒りの瞳に
アメリカの医者も日本の通訳も
何一つ言えずうつむいたと言う

アメリカは私達に
原爆を落としただけの国でしかなかった
そのことはまた
君の原爆の訴えの中に加えられ
君は目をとじ
耳をふさぎながら
原爆の悲惨さを会う人ごとに訴える
俺はもう君に
それが反戦ものであれ
戦争映画を見に行こうなどとはさそうまい
それより君の
目をとじ耳をふさぎながら進む平和への途を
君と共にさらに押進めることを誓う

1953年「芽だち」
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